2010年12月01日

【てっぱん】第57話 変わるから面白い #nhk #teppan #drama

映画のようだ。

<「田中さんにお渡しするべきじゃろう言うて村上の夫婦が。あかりに見せるかどうかは田中さんにお任せするいうことで」
と隆円が差し出した千春の手紙。
「………」
だがそれを初音は押し返した。
「結構です。今更こんなもんいりません。…読みとうない言うことです」
そこへあかりが戻って来てしまった。慌てて手紙を隠す隆円、だがあかりには千春という文字まで見えてしまった。立ち尽くしたまま2人を見るあかり。だが隆円は檀家回りに行くと立ち上がり、初音も何事もなかったかのように装う。
あかりは外へ隆円を追って出て、なんだったのかと尋ねる。
「ん〜」
「さっきの封筒!千春って書いてあった」
「……」
「あれ、千春さんの……」
「……。寝ろ」
「…え…?」
「果報は寝て待て、じゃ」

初音は仏壇からなぜか少し離れて座って相対し、
「あんなもん今頃…。あんた、何がしたいんや…」
とひとりごつ。ふと前掛けを握り締めてしまう手。苦痛の表情でうつむく。

朝になった。あかりはよく寝られなかったようだ。だがカーテンを開け、しばしじっとしていたのち、顔にうっすら微笑みを浮かべて下に降りていく。

元気よく初音におはようと声をかける。初音は何事もなかったように、あかりに朝食を整えてやる。あかりは直截に
「おばあちゃん、きのう隆円さんが持ってきた手紙じゃけど…」
だが初音は、それを聞かぬふり。わざと明るく振る舞って場をごまかしている。

尾道。隆円から連絡がない、と錠が不機嫌に落ち着かない。錠から電話しても応答しないようだ。

隆円は浜勝にあかりを尋ねてきている。檀家まわりと称して飲んでいたのか、あかりは
「酒臭い檀家まわりじゃのう」
「ん。おかげで忘れてしもうたわ」
「忘れたて、まさかあの手紙?」
隆円は懐から手紙を出して見せる。
「もう、おどかさんでよ」
「忘れたのは錠ちゃんとの約束じゃ…。この手紙、お前に分からないように田中さんに渡してくれと頼まれとったんじゃ…。じゃけどお前のばあちゃん受け取らんけん、帰るに帰れんわ」
「……。きっと…傷つきとうないんよ」
「…お前さんは?」
「え?」
「読みとうないんか」
「…うちも、今のままでええ。…読んだら…なんか変わってしまう気がする」
隆円はため息を付き、手元にあった鰹節を削りながら
「この世にはの、永久不滅のものなんか、ひとつもないで? 絶対に変わらんもんはない。ほじゃけ、生きとし生けるもの、すべてがおもしろいんじゃ」
「………」
「お前だってほうよ。去年の今頃と変わらんように見えて、ずいぶん変わった」
「うちも?」
「ときに人は、それを成長と呼ぶ」
「………」
「…坊さんみたいなこと言うたのう!」
「………。坊さんじゃのに…」

路地を歩く初音に、いつものように外に出した椅子に腰かけてなにやらこしらえている伝が声をかける。
「ゆうべぼんさん来とったなあ」
「いちいち向かいの客見とんのかいな。お暇なことで」
「千春ちゃん…尾道にある千春ちゃんのお骨、引き取る気になったんかいな。まだあっちに眠ってはんねやろ?」
「どこにいようと大きなお世話や!」
「そろそろ区切りつけた方がええんと違うか…」
そこへ隆円がまた歩いてくる。
「ほら、尾道からお迎えや」


隆円は再び初音の前に手紙を差し出す。
「これはいらん言うたはずです!…どうせ、私への恨み言しか書いてへん…」
「…あかりの…父親のことが書いてあるかもしれん」
「…ほな、なおのこといりまへん。あのこ…がっかりさせとうないさかい」
「千春ちゃんは…そがいな子じゃったかのう…。わし、あかりの父親になってもええ思うとりました。千春ちゃんもわしもひとりもん同士、気が合いましての。身重の体で千春ちゃん、よううちの寺から尾道の町、見よりました。それが寂しそうに見えて…わしが、お腹の子の父親になってもええいうたんじゃが…きっぱり、断られました…。子供は一人で立派に育てる、言うてのう。…迷いのない目しとった。ひょっとしたら…身近に、ええ手本があったんじゃないかのう」
「………」
「これに、何が書いてあるかわからん。ほやけど、これをわしに託した村上の夫婦の気持ちも…大事にしてやってほしいんですわ」
「……それならなおのこと…。うちには、読めまへん。読むわけには…いきまへんねん」
「あかりにとって…それがええんかのう…?」
「………」
苦悩の表情の初音。

尾道。錠の散髪をしてやっている真知子。
「あかり…。あの手紙もう読んでしもうたかのう…」
放心気味の錠。
「今までだって、なんとかなっとる。これからだって、なんとかなるよ」

千春が見ていたであろう夕刻の尾道の町と海の景色。

夜。初音はあかりの前に千春の手紙を差し出す。
「あんた…この中身、見たいことないか?」
「おばあちゃんは?」
「うちのことはええ。あんたがどうしたいかや」
「うちは…」
あかりが逡巡していると、初音はいきなり手紙を取って破こうとする仕草。
「ちょっと!!」
慌てて奪い返すあかり。
「なにするんよ、大事なもんじゃのに!」
「ほんなら、あんたが開けたらよろし。開けて、読んでみたらええ」
「おばあちゃんが読まんもんうちが読めるわけ!」
「うちは読まんし、あんたも読まん。ほしたら、捨てるよかないやろ」
「なんで!千春ちゃんが遺したもんじゃろ?」
「そやからや…」
「………」
あかりは再びその手紙を初音の方に差し出す。
「わかった」
「捨ててええんやな?」
「預かっとって! うち、いつか読みとうなるかもしれん。それまでおばあちゃん、預かっとって。ええね?」
「……。それで…気が収まるんやったら、好きにしたらええ」
初音は手紙をそのまま仏壇のところに置く。

だがそのやりとりを、鉄平がひそかに聞いていた。なにか思うところある表情の鉄平>

金色に輝く尾道の夕景、それに乗る音楽が、もはやドラマではなく上質の映画のようですごいと思った。我が家の小さい画面のアナログテレビでもこんなにきれいなんだから、大画面のデジタルだったらさぞかし、と、日頃画質に頓着しない私が初めてそういうテレビが欲しいと思ってしまったなあ。

眠れなかったあかりが、それでもばっと起き上がってカーテンを開け、少し微笑みを浮かべる描写も心に迫った。あかりの、外側の運命なんかに翻弄されないぞという意志が感じられた。かといってがむしゃらになるでもなく、しなやかに、翻弄はされなくても受け入れはして、溺れはしないけど流れには乗っていく、という「意志」。

隆円さんの坊主っぷりもよかったなあ。穏やかな、とぼけたような語り口。それでも胸に迫る。とくに今の私には、
「この世にはの、永久不滅のものなんか、ひとつもないで? 絶対に変わらんもんはない。ほじゃけ、生きとし生けるもの、すべてがおもしろいんじゃ」
は、またしても、勝手ながら天から私自身への、タイムリーなメッセージとしか思えない。そう、変わるからおもしろいのだ。変わるから生きている甲斐がある。しがみついていてはいけない。執着を手放し、軽々と流れに乗っていこう。

そうすれば恐れるものなどなにもなくなるのだ。
初音さんはまだ恐れている。いろいろなことを。自分が傷つくことも恐れているし、あかりを傷つけることも恐れているし。手放していないから、怖いのだ。
だが、「すべてを手放したときにこそすべてが完全に自分のものになる」というのが真理だと私は今考えている。失う恐れから自由になると、すべてが実はいつでもそこにある、ということが分かる。…であろう、と私は思っているが、それは簡単ではもちろんない。私も、まだまだ恐れている。まだまだ、最後の裾を手放せずにいる。


posted by おーゆみこ at 12:09| Comment(5) | TrackBack(0) | てっぱん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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